統合失調症のバイオマーカーを発見(発症初期の診断に有効)

 横浜市立大学大学院医学研究科 分子薬理神経生物学 五嶋良郎 教授、同大学附属市民総合医療センター 精神医療センター 野本宗孝 助教、およびサンフォード・バーナム・プレビス医学研究所(米国、サンディエゴ)のEvan Snyder教授、ハーバード大学のGlenn Konopaske博士らの研究グループは、統合失調症*1の患者で活性化型CRMP2*2の割合が増えていることを見出し、これが本疾患の病的変化を捉えるバイオマーカーとなりうる事を明らかにしました。この発見は統合失調症の診断や治療につながるものと期待されます。
 本研究成果は、米国科学アカデミー紀要誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されました(日本時間7月27日午前4時)。

研究成果のポイント
  • 初期の統合失調症患者の脳と末梢血液検体で活性化型CRMP2が増加していた
  • この変化には脳内神経細胞の形の異常が伴っていた
  • CRMP2は、統合失調症のバイオマーカーになりうると考えられる

図1 健常者に比べ、若年の統合失調症患者脳と末梢血液検体の活性化型CRMP2が増えている

研究背景
 我々は、脳が外界から受けた刺激の情報を統合し、その場に応じた適切な行動をとることにより、日々の生活を営んでいます。こうした脳の機能を支えているのが神経伝達で、その中心を担う構造体をシナプス
*3と呼びます(図1)。シナプスは固定されたものではなく、絶えず生成と消失を繰り返しています。このバランスが崩れると様々な精神神経疾患に罹患すると考えられます。
 私たちはこれまでに、双極性障害
*4を持つ患者さんの脳内では、CRMP2と呼ばれるタンパク質の活性化型が減っている事を報告しました。一方、統合失調症は、双極性障害と同様、若年で発症例の多い精神疾患ですが、今まで客観的な診断の指標がありませんでした。

研究内容
 本研究グループは、統合失調症患者由来の血液検体と脳検体を解析し、いずれも活性化型CRMP2の割合が増えていることを見出しました。
 まず、統合失調症患者の死後脳を対照群と比較解析しました。その結果、統合失調症患者の脳ではシナプスの形態が変化することと、活性化型CRMP2の量が多い傾向が示されました。そこで、このCRMP2が、ヒト末梢血においても検出されるかどうかを調べたところ、CRMP2 は末梢血検体でも検出されること、また、30歳未満の統合失調症患者の検体では、活性化型CRMP2のレベルが非罹患者よりも高い一方で不活性化型のリン酸化CRMP2は健常者と比べて変わらないことを見出しました。
 上記のような、統合失調症患者におけるCRMP2の活性型と不活性型のバランスの異常は、おそらくシナプス形成、シナプス成熟、シナプス伝達の異常を引き起こす可能性があることがわかりました。本研究のデータは、末梢血中のCRMP2が脳内の状態を反映している可能性を示唆しており、多くは若年期に発症するとされる統合失調症患者に対する低侵襲で、迅速かつ特異的な指標になると考えられます。

今後の展開
 今回の研究結果は、末梢血のCRMP2が統合失調症患者の病的変化の指標、すなわちバイオマーカーとなりうる事を明らかにしました。本研究の知見に基づき、従来、合理的なメカニズムや診断、治療法確立へのアプローチが困難であった統合失調症の診断や病態解明への展開が期待されます。

研究費
 本研究の一部は、イノベーションシステム整備事業 先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム「翻訳後修飾プロテオミクス医療研究拠点の形成」、科学研究費基盤Cの支援を受けて行われました。

論文情報
タイトル: Clinical evidence that a dysregulated master neural network modulator may aid in diagnosing schizophrenia
著者: Munetaka Nomoto, Glenn T. Konopaske, Naoya Yamashita, Reina Aoki, Aoi Jitsuki-Takahashi, Haruko Nakamura, Hiroko Makihara, Mari Saito, Yusuke Saigusa, Fumio Nakamura, Keisuke Watanabe, Toshihiko Baba, Francine M. Benes, Brian T. D. Tobe, Cameron D. Pernia, Joseph T. Coyle, Richard L. Sidman, Yoshio Hirayasu, Evan Y. Snyder, Yoshio Goshima
掲載雑誌: PNAS, 2021
DOI: https://doi.org/10.1073/pnas.2100032118

[参考]
用語説明
*1 統合失調症:青年期に好発する原因不明の精神疾患で、発症は遺伝要因と環境要因の相互作用によると考えられる。幻覚・妄想などの体験、作為・被影響体験などの自我障害、病識の欠如などを示しやすい。情報を適切に選択、判断、実行する上での障害がある。

*2 CRMP2:神経回路の形成に重要な役割を持つタンパク質で、チュブリンやフィラミンのような細胞骨格タンパク質と相互作用し、神経の樹状突起、スパイン、シナプス形成に関わる。

*3 シナプス:神経の情報を出力する側と入力を受ける側の間にある、情報伝達が行われる場所。シナプシンIとPSD95は、それぞれ出力側と入力を受ける側にある標識タンパク質(図1参照)。

*4 双極性障害:躁(そう)状態と鬱(うつ)状態の病相を繰り返す精神疾患で、双極性障害のそう状態、うつ状態は多くの場合、適切な治療などを通じて回復するが、再発する可能性が高い。リチウムなどの気分安定薬による予防が必要となる場合が多く、生活習慣の改善も重要である。

参考文献
Nakamura F, Ohshima T, Goshima Y. Collapsin Response Mediator Proteins: Their Biological Functions and Pathophysiology in Neuronal Development and Regeneration. Front Cell Neurosci. 2020 Jun 23;14:188. doi: 10.3389/fncel.2020.00188. eCollection 2020. PMID: 32655376





本件に関するお問合わせ先
横浜市立大学 広報課
E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp

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